ファミリービジネス:上場か非上場か? 

ファミリービジネスにおいて、集中オーナー型をとるか、分散オーナー型をとるか、あるいは、その折衷型とするか、財産の公平な分配を旨とするファミリーの理論と、議決権を集約して効果的な意思決定を行うビジネスの理論が葛藤する問題です。

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株を上場しない理由

株式を公開して得た資金をもとに事業を発展させるため、上場は企業にとってひとつの目標であるように思われていました。しかし、その資格があるにもかかわらず、あえて上場しないファミリービジネスも多くあります。その代表的な例がアメリカ、ウィスコンシン州のラシーンに本社がある、S.C.ジョンソン社です。日本では、カビキラーで有名な会社です。世界的にも数々の家庭用品で数々のリーディングブランドを展開しているメーカーで、世界70か国、社員1万2千人、グループの売り上げは、1兆2千億円を超える企業です。1886年に創業、120年以上継続している会社で、現在は創業から数えて五世代の人たちが経営しています。ジョンソン社がなぜ株式を公開しないのか、その理由を第四代のサム・ジョンソンは次のように語っています。※

「同族会社は、あるファミリーが主な株主であり、そのファミリーが健全な経営を行う限り、社員からの支持を得られます。ですから、長期的な展望に立った経営戦略に基づく経営を自由に行うことができるのです。」「したがって、ファミリーと社員株主は、たとえある時期経営が低迷したとしても、あるいは会社が将来の発展のために短期的な利益を犠牲にすることがあっても、安心して経営にあたれるのです。」

※『実務者からの提言 勝ち続けるファミリービジネスの条件』西川盛朗

「最大のリスク」となることも

一方、株式を公開したフランスの高級ブランドでファミリービジネスのエルメス社は、かつて数年間、高級ブランド世界最大手の仏モエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)に仕掛けられた株の買収に激しく抗戦しました。エルメスのオーナー家は、エルメスの歴史上、株式を公開したことが最大の失敗と考えているとのことです。

成功したファミリービジネスにとって、上場によって相続税の原資を得ようとする選択肢もあります。しかし、その見返りとして創業家のリーダーシップがリスクにさらされるようでは、ファミリービジネスの敗北と言わざるを得ません。ファミリービジネスの株式公開に関しては、ファミリービジネスシステム全体にとってどのようなインパクトがあるかを熟慮する必要があるのです。

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