ファミリービジネス事例2  山元グループの場合

2000人を超える従業員を擁し、地方都市に本拠地を置きながら国内40か所の営業拠点で事業を行い、住宅、マンション、不動産関連事業を展開する山元グループ(仮名)は、明治後期に設立され、昨年創業110周年を祝いました。創業者の山本信吾郎氏は、林業を営む家の五男として生まれ、製材業者として独立します。失敗を重ねながらも、誠実で勤勉な人柄のため、親族や地元の人たちに助けられ、事業を軌道に乗せます。その後、妻の弟、元田太郎氏が事業に加わり、建築関連事業に進出します。同時期に信吾郎氏に4人目の子供が生まれますが、その直後に妻が他界し、信吾郎氏はしばらく事業意欲を失います。しかし、義弟、元田太郎氏の献身的な働きに支えられ、信吾郎氏は事業に復帰、建築事業を拡大させます。人生をゆるがすような悲しい出来事、苦しい出来事があると、人は躁的防衛をすることがあります。情緒的な苦しみを事業拡大の意欲に変えた一例と言えます。

目次

両家の強い絆で事業をリード

信吾郎氏の長男、二代目社長の茂樹氏は、戦後の復興需要の波に乗り、建築事業をさらに拡大、各地に営業拠点を展開します。茂樹氏の兄弟や元田家の子供たちも事業に加わり、営業拠点の責任者として活躍します。さらに事業は発展し、マンションの建築、販売、不動産開発事業へと発展します。茂樹氏の長男、三代目社長の英明氏は、各事業を子会社として独立させ、山元ホールディングスを中心とするグループとして再編、各子会社に山本家、元田家のメンバーを配置し、強い絆で結ばれた両家が事業をリードしていきました。

バブル崩壊後ファミリー分裂の危機

しかし、90年代に入り、バブル崩壊によって資金繰りが悪化し、英明氏は主力銀行の意向によりやむなく不採算の子会社を整理することになります。このことがきっかけで山本家と元田家の間と、さらに各家の分家間で意見の不一致を生み、一族の絆が弱まり、ファミリー内のコミュニケーションがとりにくい状況になります。

四代目のチャレンジ

現在は2005年に四代目社長に就任した山本新一氏がグループ全体を率いています。新一氏は父の時代に悪化した親族の関係を修復したいと考えます。「わが社は山本家、元田家両家の先人たちの献身的な努力と協力関係で発展してきた。持ち株は山本家で70%、元田家で30%、それぞれ本家に集中させているが、両家の本家も分家も、オーナー家のメンバーの自覚を持ち、互いに分け隔てなく接し、仕事の機会も与えられてきた。事実、自分たちは子供のころからいとこ、はとこたちと一緒に育ち、皆仲が良い。しかし、今は親の世代で両家の関係が悪化してしまい、いとこ、はとこの間にも遠慮がちな雰囲気が生まれている。両家に信頼を寄せてきた非同族の社員や、取引先、地元の人たちのためにも、この状況をなんとかしたい。さもないと、次の世代では両家のリーダーシップは失われてしまうのではないか。」

ファミリーガバナンスに着手

こう考えた新一氏は、経営者として主力事業、関連事業に参加している4名と、他社に働く2名の同世代の兄弟、いとこ、はとこに呼びかけて、各家の課題や懸念事項、ファミリーとしての意思統一しなければならないことなどを話し合う場を設けます。この話し合いを契機に、新一氏は、いとこ、はとこたちと共に、祖父を知る人たちや父親世代の関係者に話を聞き、曽祖父山本信吾郎氏と元田太郎氏、祖父茂樹氏の思いや戒めとしてきたことをまとめ、一族に配ります。これをきっかけに、親世代の対立は徐々に和らいでいきます。

さらに一族の結束を強め、子供たちの育成や財産の管理などを目的として、6名の兄弟、いとこ、はとこを評議員とする「ファミリー評議会」を組織します。ファミリー評議会では、両家が協力し、献身的な努力を重ねて事業を育ててきたことを今後の世代に伝え、末永く発展していくための活動を行っています。

ファミリーガバナンスの諸活動で永続性を高める

そして、「リレーションシップ委員会」「ファミリー教育委員会」「ガバナンス委員会」の3つの委員会を作り、評議員が委員長として活動しています。リレーションシップ委員会は、親族や子供たちの懇親をテーマとして一族全員が毎年集まるファミリー総会の企画、実施に加え、ファミリーのためのニュースレターを発行しています。ファミリー教育委員会は、初代から大切にされてきた理念や戒めを家訓としてまとめる活動に加え、社史をマンガに編集する、ファミリー向けの講演会などの活動を、ガバナンス委員会は、株に関する取扱いをまとめた「株主協定」や、会社と一族の関係を規定する「オーナーズマニュアル」などのファミリーのルール作りに取り組んでいます。

※これは、実際の複数のファミリービジネスでの出来事を素材として、ひとつのストーリーにしたものです。

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