ファミリービジネスの自社株式:集約か分散か

●長子単独オーナー型
長子単独オーナー型の長所は、何と言ってもルールがシンプルであるという事です。誰にとってもわかりやすく、次のオーナーが誰であるかはすべての人にとって明確です。二男に生まれた者は、家業のトップではない仕事、または全く別の仕事をしなければいけないことがはっきりしています。一方、長子単独オーナー型の一番の短所は、長男が必ずしも優秀であるとは限らないことです。そのような場合、事態が複雑にならざるを得ません。

ある優秀なファミリービジネスでは、「たとえ長男が無能であっても、他の者は長男を助け、家長として尊重せよ」という創業者の言葉を代々伝えています。幸い、これまで4世代の長男は全員が大変優秀で、事業は大きく発展しています。このような言い伝えをしっかりと受け継いでいること自体が、優秀な長男を輩出する土壌づくりになっているようにも思われます。

●分散オーナー型
一方の分散オーナー型の長所は、一族の中から最も優秀な者をビジネスリーダーとして選ぶことができる点です。さらに、単独オーナー型では、他のファミリーメンバーはビジネスからの配当金などのビジネスの成果を手にしにくいのに対し、分散オーナー型ではファミリー全体にその機会を提供し、ビジネスに対するファミリーの長期的な支援を担保することができる点にあります。

分散オーナー型をより強いものにするためには、本ブログのテーマであるファミリーのガバナンス機関をしっかりと構築する必要がありますが、それが実現すれば、単独オーナー型とは比較にならないほどの強靭なファミリービジネスシステムとなり得ます。

逆に、ファミリーガバナンスに失敗した場合、分散オーナー型は、単独オーナー型に劣るもので、ファミリー内部の対立、ビジネスに対する無関心、全体を見ることなく利益のみを追求する分家、経営陣の人事を巡る対立、などの混乱を招き、やがてファミリーがビジネスを害するものになり、ファミリービジネスの弱味を露呈するものになっていきます。

そのため、欧米の多くの優良ファミリービジネスでは、分散オーナー型の上にファミリーガバナンスを構築することに真剣に取り組んでいます。

ファミリービジネスシステムは、ファミリー、ビジネス、オーナーシップの3つのサブシステムで構成されていることは前述のとおりですが、サブシステムとしてのビジネスが、ファミリーに豊かな資金を還流させ、ライフスタイルを担保し、充実した仕事の場を提供する一方で、サブシステムとしてのファミリーが、ビジネスに対して創業の理念に基づく価値観を提供し、世代を越えて優秀な人材を送り込み、ファミリーが持つ社会的信用や人的ネットワークを提供する、このような好循環を内包するファミリービジネスシステムが、どちらのオーナーのタイプを選ぶにせよ、目指すべき姿であろうと思います。

シェアはこちら
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次