無意識の「事業承継の談合」が世代交代を遅らせる

世代交代のタイミングは遅れがちになることが多いものです。引退せずに社長を続けるという選択肢も否定はしません。実際、米国最大のケーブルテレビ会社、コムキャストの創業社長は、80代で40代の息子と会長・社長のコンビを組み、互いに尊重し合う関係を作って事業を拡大させました。

しかしこのようなケースは稀であり、引退しない場合、どのようなデメリットがあるかをふまえておく必要があります。80代の社長が引退について意思表示せず、60代の息子が先に引退するようなケースもあるのです。息子はフラストレーションが高まり、経営意欲を失ったり、逆に社長の反対勢力になったりします。

肉体の衰えはビジネスの停滞につながるものです。社員、仕入先、金融機関から陰で「老害では?」と言われる覚悟もしなければなりません。会議での話が長くなる、昔話が多くなる、自分の誤りを認めない、昨日の自分の発言に「俺はそんなことは言ってない」と言うなどの言動が目立つようになります。この程度ならまだ良いのですが、環境の変化に鈍感になり、過去の成功体験にこだわり、現在の環境に対応する方法を受け入れられなくなると、経営にも悪影響が及びます。社長自身が会社の足かせになってしまうのです。加齢による認知症を発症する例も少なくありません。「老害」の発言、行動は、それが会社を害していることを本人が気づかないだけに、たちが悪いものです。

米国のFFI(Family Firm Institute)の創設者のひとり、Ivan Lansberg博士は、引退が遅れる理由は、社長本人の気持ちに加えて、ファミリーメンバーも知らずに加担しているからだと言います。これを無意識に起きる「承継の談合」と呼びます。引退は父親の死を連想させるものであるため、そのことに対するファミリーの恐れがあり、誰も口を開こうとしません。また、子供たちは、自分を後継者に指名してほしいという暗黙のメッセージが含まれるため、貪欲だと思われはしないかという恐れを持ちます。同時に今まで平等に扱われていた兄弟姉妹は、父親の引退や後継者の指名の結果、互いの立場に差が生じるかもしれないという恐れを抱きます。これらの恐れが、ファミリーメンバーが父親の引退について話すことを止めているのです。ファミリーの誰もがまるで談合したかのように「その時期に来ている」ことを言い出さないというものです。そのため、父親自身も「家族の誰もそんなことは言ってない」と考え、世代交代を先送りにしてしまうのです。

現社長が引退を決意しない理由(言い訳)を調べた調査があります。引退したくない理由として、以下のものが挙げられました。「こんな面白いことはやめられない」「引退する金がない」「自分がいなければこの会社は成り立たない」「自分から会社をとったら何も残らない」「後継者がいない」「子供をコントロールし続けたい」「引退すると死んでしまう」「忠実な部下の面倒をみなければ」「今さら家にもどって妻との生活はできない」「やり残した仕事がある」「こんな状態では息子に渡せない」などです。

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