社長退任後は「自己の超越」を!~老年童話に見る課題

後進に道をゆずり退いた社長が、その後の充実した人生を歩もうとするとき、童話や神話に出てくる年長者の物語に多くの示唆が得られます。

それは、神話やおとぎ話の英雄物語のヒーローが後継者から社長へと成長する若者の人生の旅の道しるべを示唆するように、老人童話の主人公は後継者に地位と権限を渡した後の、経営者の人生後半のテーマを提示しています。

「その後いつまでも幸せに暮らしました、で終わるおとぎ話。けれどもお姫様が姑になり、王子様が白髪になっても幸せは続くのか?永遠の若さを夢見て、美や力の衰えにおびえるとき、老人を主人公とした物語が、魔法と英知をもたらしてくれる。それらは人間の深層に眠った偉大なる可能性を呼び覚ます」ユング派精神分析医のアラン・B・チネンは、『成熟のための心理童話』(早川書房1996)において、このように述べて世界の15の童話から人生の後半を価値あるものにする知恵を読み解いています。15の童話には、『舌きり雀』『こぶとりじいさん』『花咲かじいさん』など、5つの日本の童話も含まれています。

若者のための英雄物語においては、天命を聞き、旅の仲間を得て、境界線を越えて新たな世界へと進む「旅立ち」、悪魔に出会い戦うことで成長し新たな自己を発見する「通過儀礼」、成長した人間として宝物を持って故郷に帰り、村を豊かにする「帰還」という一連の共通するテーマがあります。

このような若者の英雄物語における課題は、「自己の発見」であるのに対し、チネンは年長者の物語に現れる課題は「自己の超越」であると言います。また、若者の美徳が、勇気、忍耐力、自信であるのに対し、年長者の美徳は機敏さ、寛容さ、好奇心であること、若者の旅では魔女、鬼、龍など目に見える敵に対して剣を振って戦うのであり、現実の世界でも、例えば親と闘うことで独立心を養っていくのに対して、老人は目に見えるような敵と出会うのではなく、内面的な敵に対して長年の経験に基づく洞察や知恵で対処し、さらに敵の攻撃を力で迎え撃つのでなく、敵との間に橋を架けたり、身をかわしたりすることで解決します。

英雄物語も老人童話も、人間の意識の境界を広げるという点において共通していますが、英雄物語においてヒーローは龍や怪物などの擬人化された無意識の力を征服するのもので、ヒーローの勝利は理性の勝利です。それに対して年長者は人生の経験の基礎を解明し、深めます。若者は人間性の花を目指すのに対して、年長者は人間の心の内部から伸びた根を豊かにし、そこに蓄えられた人間の精神の最も崇高な力を志向します。

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