事業承継計画の不在が新戦略実施の障害になっていた事例

事業承継計画不在のため、ビジネスが停滞していた事例です。

 

戦後間もなくA氏は部品メーカーを立ち上げます。

兄弟、従弟とともに試行錯誤しながら品質を高め、大手メーカーの主力仕入先になります。

高度成長に支えられて、国内に3か所の工場を持つに至り、兄弟、従弟を各工場の責任者に。

中国での需要拡大を見込んで、平成元年には中国に別会社を作り、

一部を出資した弟が中国工場の社長になります。

 

A氏の長男T氏は大手メーカーに勤務の後、5年前に専務として父親の会社に入ります。

この5年間で主力販売先の大手メーカーは生産拠点を中国に移し、

A氏の会社の売上は激減、慢性的な赤字になっています。

代わりに、中国の別会社は急成長し、A氏の弟はその息子を社長にしたい意向です。

 

専務のT氏は赤字を止めるため、工場閉鎖などのリストラプランを父親に提言しますが、

A氏は結論を先延ばしにしています。

A氏は80歳になり、共に会社を伸ばしてきた兄弟、いとこもすべて70代。ほかの社員も高齢化しています。

 

T氏は会社の持つ技術を生かして弟と共に従来の製品に代わる新しい製品を開発し、

今後市場が広がると確信していますが、

量産化には新たな投資と新たな人材が必要と考えています。

そのためにはまず不採算工場の閉鎖などのリストラプランを実施する必要がありますが、

父親のA氏はリストラに消極的。「営業努力が足りない」、の一点張りです。

T氏は経営戦略立案のため、ファミリービジネスコンサルタントを依頼しました。

 

コンサルタントはA氏、T氏、A氏の兄弟、従弟、中国の社長、その他会社の幹部にヒヤリング。

問題の本質は事業承継計画の不在と考え、ファミリー会議の開催を提案します。

 

ファミリー会議で、経営に携わる親族、株を持つ親族が集まり、現状と将来を話し合った結果、

A氏の早めの引退、A氏の兄弟・従弟の処遇、中国の別会社を含めた次世代の株主構成などが決まりました。

次世代への移行時期が明確になった後、T氏はリストラプランと新製品の事業計画をプレゼンし、

社長をはじめ親族の合意を得ました。

 

現在T氏はファミリーの支援のもと社長に就任、弟と共に開発した新規事業は軌道に乗り始めています。

A氏は会長となり現場を離れ、長い間中断していた趣味の油絵を再開。

スケッチブックを持って全国を旅しています。

 

一見すると新戦略のプランが社長の同意を得られないというケースですが、
その背景に、世代交代に対する無言の抵抗があり、

現経営陣の引退に関する話し合いが行われていなかったために、
経営革新が滞っていたというケースです。

 

現実にはこの様な事例が多いものです。

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